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Permission to Dance Official MV感想 - 正しい。でもモヤモヤする。でも応援はしたい。

BTS (방탄소년단) 'Permission to Dance' Official MV - YouTube

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※あくまで一個人の感想です(解釈、考察、妄想も多分に含みます)

※"Permission to Dance"のMVについて、ネガティブな感想が書かれています。ご覧になりたくない方は、このページは閉じて回れ右してくださいね!

 

 

このMVでBTSが描くのは、COVID-19禍における希望のメッセージです。それはとても「正しい」行動だと思います。誰もがマスクを外して笑顔になりたいし、大切な人と触れ合いたいし、何の不安もなく楽しく踊りたい。それが容易に叶わない現状では、「もうすぐ叶うよ」と言ってくれる歌に癒されたいですよね、そりゃ。

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COVID-19状況下で、より強く影響を受けたと言われる人達・市井のヒーロー/ヒロイン(いわゆるEssential wokersを含む)にスポットライトを当てる。これも非常に「正しい」姿勢ですよね。このMVでピックアップされているのは清掃員、教師、オフィスワーカー、配達員、外食サービスに携わる人々ですね。

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そしてMVの登場人物が「ある程度の数の」人種で構成されていることも、「正しい」と思います。COVID-19のウィルスは肌の色なんてお構いなしに感染力を発揮しますし、人種に関係なくあらゆる人が影響を受けていますから。

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そんな「正しさ」でコーティングされたMV。それを私は魅力的と感じたか?答はNOでした。理由は単純で、「正しさ」の表現が総じて中途半端に見えてしまったからです。

 

まず、MVが希望として指し示す「COVID-19の終息」。そこに至るにはまだまだ程遠く、それは”We don’t need to worry”と明るく歌って踊れるようなものではないと私は考えています。

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ワクチン接種が進んだ国でも新たな変異株が登場し、再度ロックダウンに踏み切る・新たなワクチン開発を始動させる国が出始めています。医学とウイルスの追いかけっこはまだ終わっていません。

 

大切な人をCOVID-19で亡くした人もいます。他にも、感染して一命は取り留めたものの後遺症と戦っている人も。感染こそしなかったものの、経済的に・社会的に大きな影響を受けている人も。彼ら/彼女らの人生は今後もずっと続いて行くんです、COVID-19から受けた影響を抱えたままで…。だから思うんですよ、「終息」って、扱いがとても難しいものなんじゃないかな…と。

 

そんな考えの私から見たら、マスクが外れて踊れる日が来ればそれが「終息」であって…今はつらくてもいつかそうやって"land"できるから…と語るMVは…。「終息」の難しさに対する眼差しを欠いた、表面的なメッセージに聞こえてしまったんです。ゆえに、それは励ましとも癒しとも希望とも感じられず…胸に広がるのは虚しさばかりでした。

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そしてスポットライトの当て方も、私にとっては何だか首をかしげたくなるものでした。Essential workers の最たる例である医療従事者はどこへ…?

いや、このMVが「単純に」市井で働く色々な人たちをモチーフにするだけなら、今のままでも全然良いんですよ。でも違いますよね?わざわざテーマにCOVID-19を持ってきておいて、かつそれに影響を受けたいくつかの職種(配達員・清掃員・外食サービス従事者等)は登場させているんですから。

にも関わらず、医療従事者は除外するのは…。職種の選択には製作陣の意図が何かあるんでしょうけど。

医療従事者なくして ”The wait is over”と歌い踊る意図って…どういうことだろう…?と疑問がぬぐい切れません…。

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さらに、このMVは複数の人種を登場させることで、「世界の皆さん」を表現しようとしています。COVID-19禍にある「世界中の人々」に、この曲の聴き手になってほしいからでしょう。(歌詞が全て英語なのも、国際手話を振付に取り入れているのも、「そういうこと」ですよね?)

しかし…MVに登場しない人種が世界にはたくさんありますが…彼ら/彼女らはどこへ…?全人種は不可能だとしても、せめて中東系・インド/パキスタン系・東南アジア系・メキシカン/ラテン系だけでも入れて欲しかったですね…。

黒人・白人・東アジア系と中途半端に3つ位の人種だけ出演させて、多様な世界の人種(世界の皆さん)を表現しようとしているので、それに対する違和感がスルーできず…。曲が頭に入って来ませんでした…。

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もっと突っ込むと、COVID-19という全世界的なテーマにも関わらず、MVがこんなにアメリカっぽいのはなぜ…?メンバーが演じるのはカウボーイなので、アメリカ西部の砂漠っぽい背景は理解できますが…。

カウボーイと関連が無い配達員のトラックまで、アメリ郵政公社(US Postal Service)のそれと酷似してますよね。コインランドリーや学校内部も、明らかにアメリカ仕様ですし。

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これだけ強く特定の1ヵ国を感じさせるMVに、世界の色々な都市・国の標識が出て来た時は、あまりの唐突さに面食らいました。まさか…この標識を登場させることで、グローバルなテーマだと強調しようとしているんでしょうか…?それ、アメリカンな背景と全くマッチしてませんが…。

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まとめます。

「COVID-19」というテーマに対し、それを表現するパーツの扱い方が雑と言いますか…中途半端なMVと感じました。結果として、その中途半端さが悪目立ちしてしまい、MVが伝えるべき曲の良さにもBTSメンバーの魅力にも集中できませんでした。

 

ButterのMVでは、テーマを物語る演出のコントロールが細部まで見事に効いていたんですけどね。そのMVを世に出したのと同じチームの作品なのかな?これは?と一瞬疑ったくらいです。

 

このMVでは、「COVID-19の終息」「COVID-19に影響された人々」「世界中の人々(人種の多様性)」が重要な要素として配置されています。特に最初の2つは、それこそドキュメンタリー数本作れる位のものすごい質量を持っていると思います。

数分のMVでこれらを完璧に練り上げて表現しろとは言いませんし、これらがMVで大した役割を果たさないのであれば私も気にならなかったでしょう。

ですがMVのキーパーツとして機能させるのであれば、もう少しだけ丁寧に扱って欲しかったなあ…と…。一介のアイドルのMVにそこまで求めるのは酷だと言われれば、「そうですか、ごめんなさい」と返すしかありませんが…。

 

むしろ、この曲の内容と歌詞からして、COVID-19をMVの主題にする必要ってあったんですかね…?MVを見ずに曲だけ聴くと、「音楽を鳴らせ!踊ろう!許可なんていらないよ!」というシンプルな楽しさが光を放つ曲だと思うんですが…。その楽しさを、なぜCOVID-19という切り口から表現したのでしょう…?

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本音を言えば、こんな邪推やモヤモヤは感じずMVを楽しみたかった…。そしてMVのメッセージと紐付かない状態で曲を聴いてみたかった…。ですが、困ったことにBTS自体は応援したいんですよ!BTSは好きなんですよ!

このMVにポジティブな感情をもらった人は多くいるでしょうし、それは本当に素敵なことだと思います。そんな風に、私もいつかこのMVを好きになれたらいいなあと願う気持ちも持っています。

BTSメンバーも、製作陣が固めたコンセプト・テーマの中で、彼らがベストと思うやり方で、演者として最善を尽くしているんでしょう。

製作陣も、中途半端(に私には見える)な正しさを使ってでも、BTSというプロジェクトで成し遂げなければならない何かがあるのかもしれません。(特にアメリカ向けの何か。これだけアメリカ風味なMVなので)

外野が何と言おうと「チームBTS」はそれに向かって進んで行くでしょうから、私は応援するのみですね。

 

※画像はOfficial MV、Official teaserよりお借りしました。